この知識はこんな方におすすめ
- 雇用調整助成金の申請をしてみようと思っている中小企業の社長・個人事業主
- 雇用調整助成金の自己申請を試みていてつまづいている中小企業の社長・個人事業主
- コロナウィルス感染症で売り上げが減ったので、休業を検討している中小企業の社長・個人事業主
新型コロナウィルスの収束に目途がつかず、スタッフがいる中小社長・個人事業主は雇用を維持できるかギリギリの攻防となっています。2月中旬から、雇用を維持した企業に休業手当を助成する雇用調整助成金の支給要件を段階的に緩和したり、4月から書類の簡素化を発表しましたが、ほとんど活用されていないのが現状です。中小社長や個人事業主は資金繰りへの不安から、スタッフを解雇したり、契約解除したりすることが相次ぐことになりかねません。
それを防ぐために、国が雇用保険を活用し、休業手当額の一定割合をスタッフに直接支給ではなく、会社に助成するのが雇用調整助成金です。令和2年4月1日から6月30日までを緊急対応期間と位置づけ、「特例措置✖書類の簡素化」になったとはいえ、簡素化=簡単ではないのが現状です。
このページでは、大企業の記述は割愛させていただき、4月1日以降の休業分について雇用調整助成金の申請を検討している中小企業の社長・個人事業主の方向けに、書類の詳細を事前に確認して自己申請できるか、できないか、見極めができるために解説していきます。雇用調整助成金での中小企業事業主とは、 以下の定義となっています。
小売業(飲食店を含む) | 資本金 5,000万円以下又は従業員 50人以下 |
サービス業 | 資本金 5,000万円以下又は従業員 100人以下 |
卸売業 | 資本金 1億円以下又は従業員 100人以下 |
その他の業種 | 資本金 3億円以下又は従業員 300人以下 |
あてはまる中小企業の社長・個人事業主さまは雇用調整助成金を活用するかどうかの参考にしてください。
何が簡素化されたの?
令和2年4月10日に発表された、書類の簡素化について解説します。
書類簡素化は、4月1日から6月30日休業分です。新型コロナウィルス感染症特例措置の雇用調整助成金は1月24日からの休業分にさかのぼって申請が可能ですが、要件緩和や書類の簡素化は3月31日以前には適用されませんので注意してください。
「令和2年1月24日まで遡るもの」と「令和2年4月1日から適用されるもの」の2つの特例措置があります。申請していくのに、混同してしまう部分ですので、確認したい方は、以下の記事をご一読ください。
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【雇用調整助成金】申請手続きの勘どころはズバリこれ!(4/24改訂版)
「雇用調整助成金」は前からある助成金で、厚生労働省管轄の雇用維持のため休業手当に要した費用を助成する制度です。あくまでもスタッフがいる社長・個人事業主への助成金ですので、一人社長や一人個人事業主がもらえるお金ではありません。イメージとしては、「この難局を自分でだけでなく、スタッフ全員で乗り越えていきたい!」という社長さま、個人事業主さまへの助成金制度となります。
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主な簡素化事項としては、以下の項目です。
記載事項を約5割削減
- 73事項→38事項に削減
記載事項の大幅な簡略化
- 日ごとの休業等の実績は記載不要(合計日数のみで可)
添付書類の削減
- 資本額の確認の「履歴事項全部証明書」等を廃止
- 休業協定書の労働者個人ごとの「委任状」を廃止
- 賃金総額の確認のための「確定保険料申告書」を廃止(システムで確認)
添付書類は既存書類で可に
- 生産指標→「売上」が分かる既存の書類で可
- 出勤簿や給与台帳でなくても、手書きのシフト表や給与明細でも可
休業が4月1日をまたぐ場合は、簡素化が適用にならないので注意してください。
支給申請の提出に必要な書類(休業)は6つ
それでは、支給申請6種類について、令和2年4月24日時点「雇用調整助成金 ガイドブック(簡易版)」を抜粋しながら説明します。
P2に「計画届4」と「支給申請6」の一覧表があります。
「計画届の提出に必要な書類(休業)」はこちらをご参照ください。
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【雇用調整助成金】<計画届編>4月以降の休業分を自己申請できるかの見極めポイント(4/24改訂版)
国が雇用保険を活用し、休業手当額の一定割合をスタッフに直接支給ではなく、会社に助成するのが雇用調整助成金です。令和2年4月1日から6月30日までを緊急対応期間と位置づけ、「特例措置✖書類の簡素化」になったとはいえ、簡素化=簡単ではないのが現状です。
このページでは、大企業の記述は割愛させていただき、雇用調整助成金の申請を検討している中小企業の社長・個人事業主の方向けに、書類の詳細を事前に確認して自己申請できるか、できないか、見極めができるために解説していきます。続きを見る
「支給申請に必要な書類(休業)」は以下の6種類です。
出典:「雇用調整助成金 ガイドブック(簡易版)」
①、②、③、④の書類は厚生労働省のHP「新型コロナウィルス感染症対策特例措置用 雇用調整助成金」からダウンロードできます。内容に改定があるごとに、改訂版が出ます。旧版は受理されない可能性もありますので、申請する場合は常にこのページを確認してダウンロードして使ってください。なお、赤丸で囲んである①、②、③、④は、雇用保険に未加入のスタッフ向けの「緊急雇用調整助成金」の場合、様式が異なりますので、注意してください。
以下では、雇用保険被保険者の書類詳細について解説していきます。
【申請①】支給要件確認申立書
正式名称は、新様式第6号支給要件確認申立書です。
ダウンロードすると、最後のページに(別紙)「役員等一覧 」がありますが、計画届に役員名簿を添付した場合は不要です。
記載事項は、ガイドブック(簡易版)とダウンロードのページにもある記載例に沿って記入してください。
申立書は、記入事項が難関というわけではなく、記載されている事項をきちんと理解することが重要です。青枠の部分をざっくり解説すると、以下のようになります。
不正をしません!不正受給していないかどうかの抜き打ち検査に応じます。調査の結果、不正事項が判明した場合は、不正受給として受け取った助成金額に年3%の延滞金と20%加算をプラスしてお返しします。
雇用調整助成金を受け取ったら、時効である5年以内に、ほぼ100%助成金の検査チームがぬきうち検査にきます。「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)令和2年4月15日現在」のP13には、以下のように「雇用調整助成金についての立入検査への協力のお願いについて」が掲載されていました。(「同ガイドブック 令和2年4月24日現在」ではこの記載は削除されています)
調査の結果、以下のようなことが判明すると、不正受給とみなされてしまいます。
・総勘定元帳をみたら、売り上げが5%減ではなかった
・賃金台帳をみたら、休業手当を払っていなかった
・スタッフにヒアリングをしたら、テレワークなどをしていて、実際は休業ではなかった
リーマンショックのときなどは、不正が多かったので、今回もかなり厳しく調査が入ることが予測されます。この申立書は立入検査への同意、そして、不正受給をしないという誓約書のようなものです。
【申請②】休業・教育訓練実績一覧表
休業・教育訓練実績一覧表は休業開始日によって以下のように2種類あります。
休業が4月1日以降
- 新様式特第9号休業・教育訓練実績一覧表
休業が4月1日をまたぐ
- 新様式特第12号休業・教育訓練実績一覧表
以下は、休業が4月1日以降の「新様式第9号休業・教育訓練実績一覧表」です。ピンク色のセルのみの入力で、自動計算をしてくれます。記載事項は、ガイドブック(簡易版)やダウンロードのページにも記載例がありますが、以下の記載例を使ってポイントも交えて解説していきます。
ポイント1:判定基礎期間は1カ月
「◆判定基礎期間」は賃金締切日毎で記載します。例えば、賃金締切日が末日の場合、青字で記しているように「令和2年4月1日~令和2年4月30日」となります。計画届に記載したのと同じ判定基礎期間を記載します。
ポイント2:労働者代表の記名・押印を忘れずに
【計画届③】休業協定書に添付した「労働者代表選任届」と同じスタッフの記名・押印をします。
【申請③】助成額算定書
助成額算定書も休業開始日によって以下のように3種類あります。また、自動計算バージョンと手書きのPDFバージョンがあります。
休業が4月8日以降
- 新様式第8号雇用調整助成金助成額算定書(自動計算のExcel版は同じファイルに第8号と第7号が入っています。第8号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
休業が4月1日から4月7日まで
- 新様式第8号雇用調整助成金助成額算定書(自動計算のExcel版は同じファイルに第8号と第7号が入っています。第8号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
休業が4月1日をまたぐ
- 様式第11号雇用調整助成金助成額算定書(自動計算のExcel版は同じファイルに第10号と第11号が入っています。第11号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
以下は、休業が4月8日以降の「様式第8号雇用調整助成金助成額算定書」です。ピンク色のセルのみの入力で、自動計算をしてくれます。記載事項は、ガイドブック(簡易版)やダウンロードのページにも記載例がありますが、以下の記載例を使ってポイントも交えて解説していきます。
ポイント1:前年度1年間の賃金総額を調べる⇒(1)に記載する
以下の「労働保険申告書」は提出不要になりましたが、この申告書(1)の「前年度1年間の雇用保険の保険料の算定基礎となる賃金総額」を記載するのに必要になります。
ポイント2:前年度1年間の平均スタッフ数を調べる⇒(2)に記載する
また、前年度の各月の月末のスタッフの数を調べて、12で割って平均して、この申告書(2)の「前年度1年間の1箇月平均の雇用保険被保険者数」を記載します。
ポイント3:カレンダーなどを使って、前年度の年間所定労働日数を調べる⇒(3)に記載する
所定労働日数が確認できる「年間休日カレンダー」の提出は不要になりましたが、2019年度の実際働いた日数を調べる必要があります。以下のようなカレンダーを使って、この申告書(3)の「前年度の年間所定労働日数」を記載します。
この例は賃金締切日が末日の場合です。御社の賃金締切日に合わせた「年間カレンダー」を使うと、確認しやすいです。参考までに、「愛知労働局」が公開している「年間休日表」をご紹介します。昨年と今年分、そして賃金締切日に合わせて各フォームを用意してくれています。
ポイント4:「休業協定書」で決めた支払い率を調べる⇒(5)に記載する
「計画届4」の1つである「休業協定書」で取り決めした、休業手当の支払い率を記載します。最低60%が必要です。80%、100%であれば、その率を記載します。
ポイント5:助成率を調べる⇒(7)に記載する
解雇等を行わない場合は「9/10」、解雇を行う場合は「4/5」となります。
ポイント1~ポイント3を入力すると、助成金のベースとなる「平均賃金額」を算出することができます。また、ポイント1~ポイント5まで入力すると、会社に入ってくる雇用調整助成金の額を事前に把握することができます。
ここで気を付けけなくてはいけないのは、雇用調整助成金の額は、個々に支払った休業手当の「9/10」を補償するのではなく、会社全体の平均賃金の「9/10」を補償するということです。「月収50万円くらいの管理職と初任給22万円前後の新入社員の方の給料など、すべて合算して人数で割る」ということと、上限が1日8,330円で、という縛りがあるので、収入が高めな社員が多い会社の場合、上限8,330円が優先されてしまい、「思ったより雇用調整助成金の額が少なかった・・・」ということになりかねません。
ですので、この「助成額算定書」のポイント1~ポイント3の作業を先にすることで、資金繰りのショートを最低限にしながら雇用を守る「休業手当」が何%か、ということを把握することができます。雇用調整助成金を申請しようか、どうしようか迷っている社長・個人事業主さまは、一度この書類を活用して計算してみてください。
ポイント6:月間休業等延日数を「申請②休業・教育訓練実績一覧表」から調べる⇒(8)に記載する
「計画届①休業等実施計画(変更)届」にて「休業予定日数」と「休業予定の人数」を記載しましたが、実際に休業したことを記載したのが「申請②休業・教育訓練実績一覧表」です。記載については、転記をするのみなので簡単ですが、支給要件の1つである休業等規模要件1/40をクリアしているかを確認することがとても重要です。休業等規模要件とは、「休業判定基礎期間における対象労働者に係る休業の実施日の延日数が、対象労働者に係る所定労働延日数の 1/ 40以上」ということです。
例えば、判定基礎期間における所定労働延日数が 22 日、「所定労働時間」が 1 日 8 時間の会社において、10 人のスタッフが 1 日ずつ休業をする場合、「休業延べ日数」は 10 人×1 日゠ 10 人日となりま す。この場合、10/220>1/40 となるため、当該要件を満たすこととなります。
【申請④】(休業等)支給申請書
(休業等)支給申請書も休業開始日によって以下のように3種類あります。また、自動計算バージョンと手書きのPDFバージョンがあります。
休業が4月8日以降
- 新様式第7号(休業等)支給申請書(自動計算のExcel版は同じファイルに第8号と第7号が入っています。第7号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
休業が4月1日から4月7日まで
- 新様式第7号(休業等)支給申請書(自動計算のExcel版は同じファイルに第8号と第7号が入っています。第8号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
休業が4月1日をまたぐ
- 様式第10号(休業等)支給申請書(自動計算のExcel版は同じファイルに第10号と第11号が入っています。第11号のシートを指定して印刷してください)
自動計算(Excel)版 / 手書き(PDF)版
以下は、休業が4月8日以降の「新様式第7号(休業等)支給申請書」です。ピンク色のセルのみの入力で、自動計算をしてくれます。記載事項は、ガイドブック(簡易版)やダウンロードのページにも記載例がありますが、以下の記載例を使ってポイントも交えて解説していきます。
【申請⑤】労働・休日の実績に関する書類
この書類は、厚生労働省のHP「新型コロナウィルス感染症対策特例措置用 雇用調整助成金」からダウンロードできません。会社で管理しているものを2種類提出します。
1つは、労働日、休日及び休業の実績が明確に区分されている「出勤簿」や「タイムカード」のコピーです。手書きのシフト表なども有効になりました。休業と出勤を明確にするための証拠書類の位置付けです。
もう1つは、賃金支払い日や手当の支払いなどが明記されている「就業規則」や「労働条件通知書」のコピーです。週休2日制とかではなく、交代で休みをとっているなどの変形労働時間制などの場合は、届け出の写しも必要です。
就業規則や労働条件通知書が整備されていない場合は、ハードルが高い書類となりますが、このような書類を揃えなければ、助成金は支払われません。なぜなら、「助成金を受け取る=厚労省の理想の会社になる」ということだからです。
労働関係の書類の書式などは管轄の労働局のHPからダウンロードするか、雛型を利用するか、専門家に依頼するなどして、そろえる必要があります。参考までに「東京労働局」のHPをご紹介しておきます。 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/youshikishu_zenkoku.html
【申請⑥】休業手当・賃金の実績に関する書類
この書類も、厚生労働省のHP「新型コロナウィルス感染症対策特例措置用 雇用調整助成金」からダウンロードできません。会社で作成している、賃金台帳または給料明細のコピーを提出します。
雇用調整助成金は、企業が休業手当を支払ったお金を助成するものですので、きちんと休業手当を支払ったことを賃金台帳または給料明細で確認します。つまり、「休業控除」「休業手当」の欄をもうけることがポイントです。
また、審査のときは、これを元に、休業手当が3カ月の平均賃金の60%を上回っているかをチェックします。休業手当の記載や金額が誤っていると不支給になりかねませんので、気を付けましょう。
以上、「支給申請に必要な書類」の6種類の解説でした。
まとめ
新型コロナウィルス感染症特例措置「雇用調整助成金」は、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、休業などの雇用調整をした場合、スタッフへの休業手当の一部を国が助成する制度です。直近1カ月の売り上げなどが前年同期比で5%減った場合、中小企業には休業手当の最大90%を支給しますが、手続きが煩雑で受給までに時間がかかる課題が指摘されています。
もらえる助成金の金額から考えると、自己申請を試みる社長・個人事業主も多く、その際、書類の詳細を事前に確認して自己申請できるか、できないか、見極めができるために、「申請」の書類の詳細について解説しました。
全体像を把握した上で、自己申請ができるという社長・個人事業主は、リンク先を参照にして、書類をダウンロードして、それぞれのポイントを確認しつつ、書類を作成してください。
支給申請の書類を確認することで、一番有効なことは、「③助成額算定書」です。申請する前に、この書類の入力の準備をすることで、「雇用調整助成金を申請したら、いくらの助成金が会社に入ってくるか」という概算を確認することができるからです。また、「休業協定書」を作成する際に必要な「休業手当」を何%にすると、資金繰りのショートを最低限にして、助成金を受け取りながらスタッフの雇用を守る、ということが可能となります。
雇用調整助成金を申請しようか迷っている社長・個人事業主の方は、一度「③助成額算定書」に取り組むことをオススメします。
また、休業手当と助成金の額のバランスについて、専門家が必要な場合は、全国の社会保険労務士をご活用ください。休業手当をスタッフに頑張って払ったのに、意外に国からの助成金の額が少なった…と想定外のことを1つでも避けるためにも、社会保険労務士をご活用ください。