この知識はこんな方におすすめ
- コロナウィルス感染拡大の甚大な影響を受けているスタッフがいる社長・個人事業主
- コロナウィルス感染拡大で、売り上げが下がってスタッフを休まざる得ない社長・個人事業主
- コロナウィルス感染症で売り上げが減ったので、会社から休業との指示を受けたが、給料が支払われるか心配な方
新型コロナウイルスは2019年11月に中国武漢で発生が確認され、瞬く間に世界中に蔓延しました。有効な治療薬、予防薬がないため、新型コロナウィルスの感染拡大を止める有効な手立てとして、日本でも人が集まる行事や生活が中止されています。感染拡大を防止するための緊急事態宣言は、飲食店、宿泊施設、小売りだけでなく、さまざまな業界の顧客激減に影響を与えています。そのため、営業自粛や売り上げ減による休業も余儀なくされている中小企業の社長や個人事業主は、スタッフに払う給料の支払いに頭を抱えていることでしょう。
また、休業を強いられているスタッフの立場からすると、給料が支払われるのか心配になっている方も多いです。このページでは、新型コロナウィルス対応特例措置「雇用調整助成金」についての解説していきます。
「雇用調整助成金」はスタッフがいる社長さま、個人事業主さまが受け取れる返済不要のお金
新型コロナウィルスによる経済支援策として、融資、給付金、助成金など、さまざまな施策があります。融資は、金融機関がお金を貸すことですので、返済義務があります。それに対して、給付金や助成金は、条件に合致すれば原則100%受給できるお金であり、返済不要のもらえるお金です。
「雇用調整助成金」は前からある助成金で、厚生労働省管轄の雇用維持のため休業手当に要した費用を助成する制度です。あくまでもスタッフがいる社長・個人事業主への助成金ですので、一人社長や一人個人事業主がもらえるお金ではありません。イメージとしては、「この難局を自分でだけでなく、スタッフ全員で乗り越えていきたい!」という社長さま、個人事業主さまへの助成金制度となります。
多くの方が混同しているのが、個人事業主に最大100万円、中小企業に最大200万円の給付される「持続化給付金」です。こちらも融資ではなく、もらえるお金という点は同じですが、こちらは売り上げが下がっている社長さま、個人事業主さまが対象です。つまり、スタッフがいなくても受け取れるのです。
「雇用調整助成金」と「持続化給付金」の対象の違いをきちんとおさえましょう。
新型コロナウィルス感染症特例措置「雇用調整助成金」は大きく分けると2つの特例がある
通常の雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が対象ですが、新型コロナウィルス感染症にかかる特例措置として、新型コロナウィルス感染症の影響を受ける全業種の事業主が対象となりました。さまざまな特例措置が厚生労働省より続々と発表されていますが、大きく分けると「令和2年1月24日まで遡るもの」と「令和2年4月1日から適用されるもの」の2つの特例措置があります。申請していくのに、混同してしまう部分ですので、以下にて解説していきます。
特例措置:令和2年1月24日まで遡るのは9項目
「雇用調整助成金」という助成金は、「休業します」という計画届を事前に提出することで、支給申請が可能となります。しかし、新型コロナウィルス対応特例措置「雇用調整助成金」は、以下のように事後申請が認められるという過去に実例がない特例中の特例というのが大きな特徴です。
出典:厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を拡充します」
以下の表は、令和2年4月24日現在版の「雇用調整助成金FAQ」を基に、1月24日に遡及して適用される9項目をまとめたものです。
それぞれ1つずつの項目について、専門用語を使わず解説していきます。なぜなら、通常の雇用調整助成金での行政指導、もしくは、専門家からのアドバイスがあることも想定されますので、特例措置の雇用調整助成金を申請する側として最低限の知識武装が必要だからです。
1|1月24日までさかのぼるもの:生産指標要件の対象期間の短縮
生産指標要件とは、生産量や売上高が下がっているかどうかです。通常は、直近3カ月平均と前年同比で10%以上低下ですが、計画届を提出する前月1カ月と前年同月比で10%低下と対象期間が短くなりました。例えば、3月に休業を実施し、4月に計画届を提出する場合、令和2年3月分と令和元年3月分を比較して10%以上低下していれば、対象となります。
2|1月24日までさかのぼるもの:雇用量が増えていてもok
通常は、スタッフの数が基準を超えて増えている場合は対象外ですが、スタッフの数が増えている場合でも対象です。
3|1月24日までさかのぼるもの:クーリング期間の撤廃
1年以内に雇用調整助成金を受け取った場合は、1年間のクーリング期間が必要ですが、クーリング期間を撤廃しています。2019年の集中豪雨により河川氾濫や、台風による風害などで、雇用調整助成金を受け取っていた事業主もいらっしゃるかもしれません。このように1年以内に雇用調整助成金が支給されている場合でも対象となります。その際、過去の受給日数にかかわらず、今回の特例の対象となった休業等の支給限度日数まで受給できます。
4|1月24日までさかのぼるもの:被保険者期間要件の撤廃
通常は、6カ月以上の雇用保険被保険者期間が必要ですが、被保険者期間要件を撤廃しています。これにより、4月に入社した新入社員も対象となります。内定後、1日も勤務していなかったとしても、助成金の対象となります。
5|1月24日までさかのぼるもの:設置年数1年未満の事業所も対象
通常は、事業所設置後1年以上でないと対象になりませんが、令和2年1月24日時点で事業所設置後1年未満の事業所も対象となります。対象になるかの売り上げ減の判定は、初回の休業等計画届を提出する月の前月と、 初回の休業等計画届を提出する月の前々月から直近1年間であって適切と認められる1か月分の指標で比較することになります。その際、比較に用いる月から初回の休業等計画届を提出する月の前月までの期間を通じて、雇用保険に加入しているスタッフがいることが必要です。
6|1月24日までさかのぼるもの:短時間休業は一斉でなくてもok
通常は、短時間についてはすべての事業所を一斉に休業しなければ対象になりませんが、今回は短時間でも一斉休業をしなくても対象となります。例えば、お客様が減った落ち込んだ店舗のみ短時間休業する、製造ラインごとに短時間休業をする、常時配置が必要な人を除いて短時間休業する、などです。
7|1月24日までさかのぼるもの:計画届の事後提出が認められる
通常は、計画届を事前に提出しなくてはいけませんが、計画届の事後提出でも大丈夫です。
8|1月24日までさかのぼるもの:残業相殺の停止
通常は、残業相殺があります。スタッフを休業等させる一方で、残業や休日出勤をさせた場合、休業と残業を相殺)していましたが、今回は残長相殺は停止します。
9|1月24日までさかのぼるもの:休業等規模要件の緩和
休業等規模要件が「中小1/20・大企業1/15」から「中小1/40・大企業1/30」と緩くなりました。
特例措置:緊急対応期間(令和2年4月1日~6月30日)に休業を実施した場合に限る7項目
令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合を緊急対応期間と位置づけ、さらなる特例措置として7項目の要件緩和が追加となりました。また、記載要項を約5割削減するなど書類の簡素化も適用されます。
7項目の中に、雇用保険に加入していないスタッフも対象になるというのが大きな特徴です。なぜなら、雇用調整助成金は、雇用保険が財源ですので、通常は雇用保険に加入していないスタッフは、助成金の対象ではないからです。スタッフを雇う場合、業種、規模を問わず、雇用保険の加入が義務付けられています。
雇用保険被保険者の定義
- 31 日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること
- 一週間の所定労働時間が 20 時間以上であること
雇用保険料は、毎月のお給料から強制的に引かれている社会保険料の1つで、事業主とスタッフと両方が負担しています。以下に、四大卒の社会人2年目の平均的な金額が記載された給料明細を見本として掲載しておきます。4月1日から3月31日という1年単位で、雇用保険料率が見直されますが、一般の事業であればスタッフは0.3%で、事業主負担は0.6%と、代表的な社会保険料である、健康保険や厚生年金保険料と比較すると、料率は低くなっています。
【四大卒 社会人2年目の給料明細見本】
健康保険料や厚生年金保険料など、他の社会保険料について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照にしてください。
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お金を有利に残す方程式
今回は、よくあるご質問の1つである「お金を増やしたい」、「お金の不安を解消したい」と考えてる方に、ぜひ覚えておいていただいきたい方程式をご紹介します。
それは、「収入を増やして、支出を減らして、利回りを高くする」です。また、多くの人は、収入が増えるとお金の不安が解消されると思っています。しかし、収入のアップ率に応じて、手元に残るお金が同じ割合で増えるというわけではありません。収入が増えると、税と社会保険料が増えるからです。それゆえ、毎月の支出を把握し、改善することはとても大事ですが、税金や社会保険料も支出の1つとして認識することが大切です。続きを見る
通常の雇用調整助成金は、「1週間の所定労働時間が20時間未満」で、雇用保険に加入していないスタッフは対象外です。しかし、今回の緊急対応期間では、雇用保険に未加入のスタッフも対象となりました。また、20時間以上働いているのに雇用保険に加入していない、または、義務付けられている雇用保険に加入していない場合は、雇用調整助成金を受け取るために遡って加入することで、申請手続きが可能となります。
以下の表は、令和2年4月24日現在版の「雇用調整助成金FAQ」を基に、令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合に限る主な7項目をまとめたものです。
それぞれ1つずつの項目について、専門用語を使わず解説していきます。なぜなら、雇用調整助成金の利用が広がらないので、厚生労働省が条件や申請手続きの緩和を日々行っています。そのため、専門家や現場のハローワークの対応が追い付いていないことも想定されるからです。自己申請する側として緊急対応期間を十分に活用するための全体像を学ぶ必要があるからです。
1|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:生産指標要件の緩和
生産指標要件とは、生産量や売上高が下がっているかどうかです。通常は、直近3カ月平均と前年同比で10%以上低下です。前述の「1月24日までさかのぼるもの」では、1/24~3/31の期間は計画届を提出する前月1カ月と前年同月比で10%低下でしたが、緊急対応期間である4/1~6/30の間は前月1カ月と前年同月比で5%低下と緩和されました。例えば、4月に休業を実施し、5月に計画届を提出する場合、令和2年4月分と令和元年4月分を比較して5%以上低下していれば、対象となります。
2|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:雇用保険未加入者も対象
通常は、雇用保険に加入していなければ対象になりませんが、緊急対応期間では、週20時間未満のパートやアルバイトも含めます。名称は「緊急雇用安定助成金」となり、書類の書式と助成金の計算方法は、雇用保険に加入しているスタッフが対象である「雇用調整助成金」とは異なる点に注意です。
3|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:助成率の緩和
通常は、中小は2/3、大企業は1/2の助成率ですが、緊急対応期間では、中小は4/5、大企業は2/3と緩和されます。さらに、解雇等を行わなければ、中小は9/10、大企業は3/4まで拡大されます。。
4|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:教育訓練の加算額の引き上げ
通常は、教育訓練を実施した場合の加算額は1,200円ですが、緊急対応期間では、中小は2,400円、大企業は1,800円に引き上げとなります。
5|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:支給限度日数増
通常の支払限度日数は、1年100日ですが、緊急対応期間では、この4月1日~6月30日までは100日に換算されないので、100日プラスになります。支払い日数はあるものの、限度額はありません。
6|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:教育訓練がネット可能に
教育訓練とは、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものです。通常は、自宅でのインターネットを使った教育訓練は対象外でしたが、緊急対応期間では、自宅でインターネットを使った教育訓練も対象になりました。
接遇、マナー研修、パワハラ・セクハラ研修、メンタルヘルス研修などの職業、職務の種類を問わず、一定の知識・ノウハウを身につける教育訓練も対象となりました。
7|令和2年4月1日~6月30日に休業を実施した場合:半日教育訓練+半日就業も可能に
通常は、半日教育訓練+半日就業は認めませんが、緊急対応期間は、半日教育訓練+半日就業を認めます。なお、職業訓練を受講する場合は、休業手当の支給率を100%にしなくてはいけません。
雇用調整助成金を受給するまでの5ステップ
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1休業シフトを計画しましょう
「いつ」「誰が」休むか、というシフトを組みます。セミナーがなくなったり、取引先も休みなどで仕事が減っている場合は、助成金を受ける、受けないかかわらず、休業について検討すべきです。または、仕事が全くないのに、社長が休むと言わないのでなんとなく漠然として会社に来ている、など、お互いに不満が出ることでしょう。仕事もないのに、危険といわれている電車に乗ってコロナに感染したくないというスタッフも出てくることも想定されます。社長が「休業をして、この難局をみんなで乗り越えていきましょう」と決定を下すことで、休業シフトを計画できるようになります。
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2休業協定を締結しましょう
休業するときに、どれくらいの賃金を払うかという労使協定が必要です。休業させた期間にどれくらいの給料を払うのか、労使の合意が必要です。労働基準法では、平均賃金の60%以上を休業手当として補償するということを求めていますが、これ最低水準です。これより高く、70%、80%、100%でもよいです。この%によって、受けられる助成金の額が変わってきます。それゆえ、何%で補償しますということを決める必要があります。
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3実際に休業を実施
実際に休業してください。会社にこない=休業ではありません。ましては、テレワークなんかさせていたら、休業ではありませんので、気を付けてください。
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4「計画届4」+「申請6」の書類を揃えて申請します
ステップ4として、以下のように計画届に必要な書類4種類、支給申請書に必要な書類6種類をそろえて申請します。パート・アルバイトさんの場合は「緊急雇用安定助成金」となりますので、赤丸は別の書式となりますので、注意してください。
計画届と支給申請は一緒に提出できますが、実際に休業させて、休業手当を払った記載がある「賃金台帳の写し」などの添付が必要になります。
また、以下の書類は提出の義務はありませんが、提出書類に転記するのに必要な書類となります。
書類を提出するのに必要な書類
- 直近の労働保険料申告書(控え)
- 雇用保険設置(控え)または雇用保険適用事業所番号
- 年間休日カレンダー(2019,2020年分)
4月22日に改訂があり、計画届①休業実施計画(変更届)も2回目以降の提出は不要となりましたが、「判定基礎期間」は賃金締切日単位で1カ月毎に記載する必要があります。ハローワークの窓口が混乱していることもあり、今まで通り省略しないことをオススメします。
計画届など、書類の詳細については、こちらでご確認ください。
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【雇用調整助成金】<計画届編>4月以降の休業分を自己申請できるかの見極めポイント(4/24改訂版)
国が雇用保険を活用し、休業手当額の一定割合をスタッフに直接支給ではなく、会社に助成するのが雇用調整助成金です。令和2年4月1日から6月30日までを緊急対応期間と位置づけ、「特例措置✖書類の簡素化」になったとはいえ、簡素化=簡単ではないのが現状です。
このページでは、大企業の記述は割愛させていただき、雇用調整助成金の申請を検討している中小企業の社長・個人事業主の方向けに、書類の詳細を事前に確認して自己申請できるか、できないか、見極めができるために解説していきます。続きを見る
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5雇用調整助成金が入金されます
審査後、雇用調整助成金が入金されます。その後も休業するようでしたら、1カ月ごとに支給申請をします。4月は休業して5月に申請するとします。この場合、4月に前年の4月より売り上げが5%減以上の場合で、4月の給料振り込み日が5月10日の場合、それ以降に支給申請ができます。審査を行い、書類が整っている場合は、1カ月程度で支給されるということなので、6月10日が最短の支給日となります。あくまでも休業手当を払ってからの、雇用調整助成金の振込になりますので、気を付けましょう。
まとめ
新型コロナウィルス感染拡大を防止するための緊急事態宣言は、日本経済の悪化を引き起こしています。景気が悪化したとき、雇用を維持するためにスタッフを休ませるのは一つの方法です。社長さま・個人事業主さまは、休業させても平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要がありますが、その休業手当額の一定割合を助成してくれるのが、雇用調整助成金です。
雇用調整助成金は前からある助成金ですが、新型コロナウィルス感染症にかかる特例措置として、通常とは有利な支給要件や書類の簡素化が続々と発表されています。
そのため、ややこしくなってしまいましたが、大きく分けると「令和2年1月24日まで遡るもの」と「令和2年4月1日から適用されるもの」の2つの特例措置があります。申請していくのに、混同してしまう部分ですので、確実に確認してください。
なぜなら、休業手当を立て替えますので、雇用調整助成金を確実に支給されないと、会社の資金繰りがショートしてしまうからです。
2020年4月10日時点で、約460件の申請件数に対して、支給決定が3件と、たったの0.6%という状況ですが、助成金ですので返さなくてよいお金ですから、該当される方は是非活用していただきたいです。
「雇用調整助成金」は、書類申請の簡素化とはいえ、ややハードルは高めのお手続きとなっています。全体像をみて、できると思った方はご自身で申請してみることをおすすめします。
できないと思った方は全国にいる社会保険労務士をご活用ください。助成金手続きの代行は社会保険労務士(社労士)の独占業務です。
着手金や助成金の金額に対して〇%という成果報酬など、さまざまな依頼方法があると思いますが、是非この機会に社労士をご活用して、このコロナの難局を乗り越えていただければと思います